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見せたいものがあるから、またうちに遊びに来いよと笑った友人が、旅立っていった。
享年28歳。あまりにも早すぎる死。
彼の両親も早くに事故で逝ってしまったから、今頃は家族でのんびりまったりお茶でもすすっているのでは、と寿利は思う。
学生時代の友人ばかりがあつまった、喪主のいない通夜が終わり、遺体の前に線香を炊き続けながら遺品の整理をしていた。
整理といっても部屋の中はアンプやマイク、ミキサーなどの機材ばかりで、片付けるものはもっぱら楽譜などの紙類だけだった。
海外に移り住んだ奴がいたり、結婚した奴がいたりと、こんなことがない限りそろわないメンバーだ。片付けながらもつもりつもった話が花を咲かせる。
「しかしあいつ、マジですげぇなぁ。みろよ、この譜面の数」
「あの紅音にも楽曲提供してたんだろ?音大生の目標だよな」
「おぉ、学生時代のアルバムがあるぞ」
「いいもんみっけたじゃーん、みんなでみよーぜ!」
「おい、お前ら遊んでねぇでちゃんと片付けてやれよー」
満面の笑みで、とは言いがたいが皆の口調はそこそこ明るかった。
そこへ、参列者のために開け放たれた扉から
「お邪魔いたします」
と一人の男性がやってきた。彼は自らを弁護士だと名乗った。
線香に火を灯し遺体に手を合わせてから彼らに向き直る。
「私は弁護士として故人・雲梯響悟さんから遺言執行者に指名されています。このような場合に開封するように言われていますのでただいまより遺言を発表します」
彼らも片付けの手をとめて座り、その言葉を聞き入る。
急に見知らぬ第三者が、しかも遺言をもって入り込んできたことで、現実から目をそむけることのできなくなった彼らは、糸が切れた人形のようにうなだれていた。
「皆様個人に宛てて、手紙を預かっています。それが雲梯さんからのご依頼です」
まるで機械が話しているような、抑揚のない声だった。
名前を呼ばれ、それぞれが手紙を受け取る。名前を呼ばれなかったものはいない。まるで初めからこのメンバーが集まることを知っていたかのようだった。
それから二、三注意事項を述べて、弁護士は一礼して帰っていった。
何かの儀式のうちのひとつであるかのようだった。
「なぁ……とりあえずあけてみようぜ」
「そうだな……」
誰ともなしに言って、呆然としたままそれぞれ手紙を読み始めた。
渡された封書は、少し色あせていていつ用意されたのかわからないもの。
【万年青 寿利 様】
几帳面な字で書かれた自分の名前は、確かに響悟の筆跡だ。
高鳴る心臓を押さえるため一息ついてから封を切った。
『頼む』
目に飛び込んで来たのはその二文字。
(何を頼むんだ?)
小首をかしげながら、寿利は続きに目をやる。
以前見せたいと言っていた『彼』を、頼む。とそこには書いてあった。
(彼……?)
「おい……、トシ、なんて書いてあった?」
「え……?あぁ……」
ふと我にかえると、他の面子が自分を見つめている。
「俺らはそれぞれの機材と」
「UNICEFへの寄付?」
あいつらしいよなーと眉を潜めて笑う。
寿利は少し狼狽しながらも何とか答えた。
「俺はPCと、KAITOを頼むって……」
「KAITO……?」
「なんだ?KAITOって……」
みんながそろって首をかしげていると、一人がようやく声を上げた。
「あ、思い出した。ボーカロイドとかいうやつだ」
「ボーカロイドって……あの?歌わせるためのアンドロイド……?」
アンドロイド……dollsと呼ばれる人型が生み出されてから久しい。最初は介護や介助の目的で開発されたのだが、物珍しさからか高値にもかかわらず買い手が多かったため、生産が追いつかないほどだったという。
今では多用途に使えるdollsが開発され、全国規模のファミレスやコンビニなどでもよく見掛けるようになった。
一部を除いたこれらのdollsは、人間に近く作られてはいるものの、関節の造りや声など一目でdollsとわかるものばかり。それらの問題を解決させたのが、dollsシリーズの最新作、ボーカロイドなのである。
「でも所詮アンドロイドだろ?」
誰かが言った。
「基盤はマスタードールらしいぜ?」
マスタードール。
いつ誰が作ったとも分からない完全なる人型。
皮膚も細胞もすべてが人間と同じようにできており、違うものと言えば命の長さだけという。
「マスタードールでdollsなんて……どんだけコストかけんだよって話だな」
「相当値が張るだろうな」
「ウン百万とか……下手すりゃウン千万」
金の話には事欠かない。今も昔も同じだ。
「で?そのマスタードールは……?」
彼のことを気にかけた時、どこかで何かの電源が入る音がした。どうやらここではない、別の部屋らしい。
「……?」
「……なんだ?今の音」
訝しんでいるとリビングから廊下に続く扉が開いた。
『おはようございます、マスター?』
青い髪に、薄暗い蛍光灯の下でも輝きの変らないパライバの瞳。
そこにいた全員が理解した。
彼が、KAITOだ。
まだまだ仮タイトル。
続きかけたらいいなぁ←