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家のドアをノックする音が聞こえた。
三階にある自室の窓から街を見ながら、ロータリオは一つ、溜息をついた。
「ロータリオー!お友達よ!」
下から母親の呼ぶ声がした。
オレンジ色と空色の多い部屋を出て、ロータリオは下に向かってはーいと返事をし、そして奇妙に思った。
いつもなら友達が来ても、相手の名前を言う母が、今日はお友達、と言ったのだ。
しかしその理由は、彼が玄関まで来るとすぐにわかった。
「こんにちは…」
そこには、黒い服を身に纏ったティンがいたのだ。
「ティンおねーさん!?どうしたの?」
驚いて、ロータリオは思わず声を上げた。
「まぁま、本当にお友達なのね?疑ってごめんなさいね…この間奇妙な事件が起こったものだから」
母親は申し訳なさそうにティンに謝った。
「いえ…私こそ…突然訪ねてきたものですから…。この間…ここから少し離れたところに…引っ越してきたんです…。ロータリオくんとは…向こうの断崖で知り合って…仲良くしていただいてます…」
にっこりと微笑まれ、母親も笑顔になる。
「そうですか。さぁ、あがってくださいな、ちらかっているけれど」
そういって、母親はありえないほどに快く、家の中へ入れてくれた。
普通、あんな事件が起これば、見ず知らずの人間を簡単に家に招き入れるとは考えられない。だが、母親は彼女の笑顔を見て、気を許してしまった。
「お邪魔します」
彼女はロータリオの部屋に通された。
「オレンジ色がキレイ…」
ティンは部屋の壁紙をみて、思わず呟いた。
「夕日の色ね…」
ロータリオはバツが悪そうに鼻をこすった。
「俺の好きな色。オレンジと青。この街からみえる夕日の色なんだ」
「そう…私も好きよ…、夕日色…」
何処かかすれたような彼女の声に、ロータリオも頷く。
「あ、こっちの窓からミシュカの部屋にいけるんだ」
そういって、彼は先ほど町を眺めていた窓とは別の窓に身を乗り出し、隣の家の窓を軽くたたいた。
「まぁ…お隣なのね…?」
ティンは肩を揺らした。
しばらくして、
「なーにぃ?」
という声とともに隣の家の窓が開いた。
「あっ!ティンちゃん!なんでなんで?なんでロウの部屋にいるの?」
そういいながら、彼女はあっという間にロータリオの部屋へやってきた。窓から窓をわたったのだ。
「いつもそうやって…部屋を行き来してるの…?危ないんじゃない…?」
ティンがたずねると、大丈夫だよとミシュカは笑った。
「うちの家とロウの家の幅、そんなに無いんだ。だから大丈夫だよ」
彼女は窓のほうへくるようにとティンを手招いた。
「あら…でも…20センチくらいあいているわ…!踏み外したら大変よ…?」
「気をつけてるから大丈夫。今まで一度も落ちたこと無いもの」
ね?ロウ?と、ミシュカに声を掛けられて、ロータリオもうんと頷いた。
「なら…いいのだけれど…本当に気をつけてね…?」
微笑んで、ティンは言った。
ミシュカとロータリオは声をそろえて返事をした。
「ねぇ、ところでティンちゃん、ロウのとこに何しに来たの?」
三人で、ロータリオの部屋の床に座り込み、話す。
「皆が…あそこへこなくなったから…何があったのかなって思ったの…」
「街の皆がね、街から…建物のある場所から出ちゃだめって言ったの」
「こないだ…サンナバが殺されて…だから…」
俯くロータリオの頭を軽く撫でながら、ティンは、そう…と相槌を打った。
「そうなの…。なら…私がここへくるわ…今まで皆が毎日あそこまで…来てくれていたんだもの…今度は私の番…ね…?」
有無を言わせぬその微笑に、ロータリオは頷き、ミシュカは彼女の体の心配をした。
「でもティンちゃん、病気は大丈夫なの?」
「うん、大丈夫よ…!今日もこのおうちまで一人でこれたんだから…!」
そんな会話をして、あたりが暗くなる前にと、彼女は早めに彼の家を出た。
「今思うと、どうして彼女は私の家がわかったんでしょうかね…?」
目の前の青年は笑った。
「そうね…不思議だわ…」
ロータリオの前に足を組んで座った、ジャーナリストの女性は笑いながらティーカップを口へ運ぶ。
「で…それからそのあと…どうなったの…?」
「えぇ…、それから貴女もご存知のとおり、次々と私の親友たちが殺されたんですよ…。それも決まって夜のうちに。そして必ず…抉り取られているんです。体の一部が」
つらい記憶を蘇えらせるため、彼は目を瞑ったまま話す。
「それは…その体の一部って言うのは決まったところなの…?」
「いいえ…、同じ場所というのはありませんでした。ただ、すべて内臓だったことは確かです。最初に殺されたサンナバは…肝臓を、次に殺されたスイックは腸を、持っていかれていました」
「それで?生き残った子供はあなただけ…?」
女性は先を促すように尋ねる。
「はい…。妹も…隣に住んでいたミシュカも…皆殺されました…。なんで私だけ生き残ったんでしょうね…」
「そうね。何か特別なものでもあったのかしら?」
女性はニッコリと笑った。その姿に、ロータリオは何か違和感を感じた。
「それから?」
「あ…それから…」
ロータリオは再び語りだした。