「え?じゃああの先輩、藏之助の知り合いなんだ?」
櫻はココアを受け取りながら、相手を見上げた。
リビングにある椅子に座り、つかない足をぷらぷらさせる。
「去年のことだが、あいつに彼女の写真を見せろとせがまれた事があってな」
そういいながら尻ポケットに手を伸ばして財布を取り出す。
カードケースの中にはいつも彼女の写真が納まっていることを、櫻は知っていた。
「で、コレをみせたわけだ」
そういって数枚ある中の一枚を差し出した。
それは秋の祭りのときに彼と彼の彼女と三人でとった写真だったが。
「それで私の顔を知ってたわけ……ってなんでよりによってこれ……?」
櫻は脱力しそうになる。
頭につけたお面、両手いっぱいに抱えられた戦利品の数々。撮影したときはほくほくで、良い笑顔で写っていたのだが、今見るとあまりにも幼い。
「なんか私が欲張り見たいじゃん……」
「その時はちょうどそれしか持っていなくてな。写ってる金魚とかヨーヨーの数に驚いていた」
「あれは愼ちゃんが私に押し付けるだけ押し付けてっ!」
ぷぅっと頬を膨らます彼女に、彼はふっと笑みを浮かべる。
「でも半分はお前が取ったんだろう?」
「ポイがおかしかったんだって。なんであんなに破れないの」
「角度とスピードが命なんだよ、金魚すくいは」
あと、ヨーヨーは紙を濡らさないのがコツね、といってリビングに現れたのは長身の男だった。
「愼ちゃん!おかえりなさい」
椅子から降りて現れた男・愼之助に近寄る。
「あはは、今日は講義を休みにしたからずっと家にいたんだけどね」
苦笑しながら櫻のハグに応じる。
「あっ、ごめんなさい」
しおらしく謝る櫻に、藏之助はもう笑いを殺すのに必死だった。自分に接するときとあまりにも態度が違う。
「気にしないさ。いつも忙くて櫻にはなかなか会えないけど、元気そうだね」
指で髪を梳くと、くすぐったそうに櫻は笑った。
「ところで藏之助。母さんたち今日はデートだそうだから、そこらへん良しなに」
目元で笑ってそういうと、タバコを買ってくるよといって出て行く。その背中に、藏之助は了解と声を投げかけた。
「デートって……おばさんたち本当に仲良いねえ」
梳いてもらった髪を口元に持ってきて嬉しそうにくすくすと笑う櫻に、藏之助は鼻を鳴らした
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