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タイトルってぱっと思いつくときとそうでないときがあります。
そうでないときは無理やりひねり出して
気持ち悪いものになる。
センスがほしいなぁ……
文次郎×仙蔵です。
苦手な方はスルー。
大事な大事な旦那様にささげたもの。
鋏を持ってきて、彼は命令を下した。
「文次郎、枝毛」
自分に枝毛があるのか、それとも彼の枝毛を切れと言ったのか。
正解は紛れもなく後者で、彼が自分の為に鋏を持ってくるなどということはあり得ないと文次郎は知っていた。
「まかせろ、坊主にしてやる」
「本当にそれをしたら、どうなるかわかってるだろうな」
まるで台本があるかのようなやり取りには、長いつきあい故。
「っつーか俺はそんなに暇じゃねえ」
机に向かって筆を置いた背中が、彼の視線に負けて溜め息を吐く。
学園を治める長が突然思いつくことは金のいることばかりで、会計委員長である彼は頭を抱えていた。
「あいつはどうしたよ?」
向き直って尋ねてみれば
「長次は……今とても忙しい。……手が放せない……」
目線は宙を彷徨い壁にぶつかった。
下ろした髪をいじりながら目線をそらすそれは。
「嘘だな」
彼の癖。
「違う」
「いいや、違わねぇ。お前が嘘を吐くときは髪を弄る。視線を逸らす」
行動を指差しながら、昔からな、と文次郎は口の端を持ち上げた。
指摘されて思わず自分の指を恨み、朱を散らせた。
「違う、本当に長次は忙しいんだっ……」
声を荒げると、益々怪しいと自分でもわかっている。それでも何故かこの男の前では素直になってしまう。
「ね……猫の蚤取りで……」
恥じらい混じりに呟く彼に、文次郎は吹き出した。
「ぶっ……そりゃあ忙しいなぁ」
くつくつと肩を揺らして笑う文次郎が憎い。どうしてこの男はいつも自分より余裕があるのだろう。容姿だって成績だって、自分の方が上なのに。
「ちょっと待ってろ。キリのいいとこまですぐに片付けっからよ」
そういって文次郎は再び自分に背中を向けた。
学園一忍者していると噂される彼が、他人に背中を見せることは珍しい。
「わかった。待っててやるから早くしろ」
「……はいはい」
笑いを含んだ声に他意はない。
本当のことなのに、と彼は心の中で一人ごちて床に腰を下ろした。
ただ待っているだけも手持ち無沙汰なので、懐紙を取り出し自ら枝毛を切り始める。
──ショキ……
──ショキ……
鋏の動く音に耳を澄ませながら、文次郎は予算を弾いていく。
不要なものは削り、必要なものだけを残して。
──ショキ……
──ショキ……
何だこの、学園長の突然の思いつき用にまわされている経費の額。
目が飛び出そうな額に眉間の皺が深くなる一方だった。
いらないものは切ってしまえ。
──ショキン……
「仙蔵」
「なんだ」
「鋏貸せ」
ひょいと鋏を取りあげて、絹糸を掬うように長い髪を持ち上げた。
「しかしすげー髪だな……」
「あたりまえだろう、手間がかかっているからな。貴様のものとは違って」
文次郎は舌打ちをしたが、聞こえているはずの彼は飄々としたものだった。
「ほら、ここにもあるぞ、切れ」
「ったく……俺はお前のなんなんだ」
「小間使い」
ふっと笑いを含んだ声で潔く言われ、文次郎は呆れ果てていた。
「お前なぁ……ちくしょー……お前みてーな奴がなんで下級から慕われるのかわかんねぇ」
「……為人だろう?」
当たり前のように言われ、ちゃっかりばっさりといってやろうかと思った文次郎だった。
「てめぇ……俺が今何してるかわかってるよな?」
「したらどうなるかわかってるな?」
まさしく先ほどと同じような台詞を吐いた二人は、同時に噴出した。
不要なものは切って、必要なものだけを残さなくては。
それは先ほどまで計算していた予算と同じ。
「ほらここも。まちがっても他の毛は切るなよ」
「わーってるよ」
文次郎はそう返事をしながら、掬った髪に、軽く唇を落とした。