寒さで小刻みに震える体を、焚き火で温める。
寒すぎる。なんだこの寒さは。
毎年の行事だからと、ミク達は大晦日の深夜に近所のお寺までやってきていた。
これから除夜の鐘を撞くのだ。
「ミク姉ぇ~寒いー!」
妹がむぎゅっと寄ってくる。
ボーカロイドの体温は、人間とほぼ同じように作られているため、くっついているとほのかに暖かくなる。
「寒い……、温暖化なんていってる人ってどこの誰よっ。なんで大晦日に雪が積もってるの!」
今日の昼ごろから降り続いている雪は、大方足首あたりまで積もっていた。
このまま降り続けば、明日はもっと積もっているだろう。
「降り始めたころは喜んでたくせに。ほら、リン。レンを見習ったら?」
火の向こうで笑っているのは姉。
弟は鼻を赤くして、ボーカロイドたちの持ち主と境内を駆け回っていた。
「ぎゃ!レン!顔を狙うの反則!」
「へっへっへ、マスターがとろいから狙われるんだぜ!」
コートと顔をを雪まみれにして叫んでいる持ち主と、雪玉を固めている弟。
ずいぶんと楽しそうだ、と眺めていれば。
「あっ!マスターそれあたしのコート!新調したばっかりのやつ!年明けに下ろそうと思ってたのに!」
「げっ!バレた!にげろっ!」
「MEIKO姉ちゃんなんで俺も狙うんだよっ!」
「うっさい!こないだ買ったばっかりのあたしのコートに雪投げつけてる罰よ!」
そういって姉も雪だまを投げつけ始めた。
「楽しそうだなぁ……」
「リンも混ざってこようかな……MEIKO姉ぇのチームで」
「それがいいと思うよ。マスターたちの方だと勝ち目ないし……」
姉は最強だ。
「ミク姉ぇは?」
「私はここで見てる……寒い」
わかった、ちょっと行ってくる、と妹が離れていった分、体温がぐっと下がった気がする。
もう少し火の近くに寄ってみた。
「あんまり近づくと火傷するよ?」
「お兄ちゃん!どこいってたの?」
妹が雪合戦に混ざってすぐに、兄がきた。
「あとどれくらいで始まるのか、ちょっと聞いてきたんだ」
十五分くらいで始まるらしいよ、と兄は答えながら隣で暖を取る。
火の回りにはだんだん人が集まりだしていた。
トレードマークの青いマフラーに、白い雪がとまる。
「お兄ちゃん」
「ん?」
「むぎゅーってしていい?」
「え?」
少々戸惑いの色を隠せない兄。そりゃそうだろう。兄妹で抱き合ってたら、変だ。
「火に当たってると顔は暖かいんだけど……背中……寒い……」
最後は消えそうなほど小さな声で訴える。
兄はくつくつと肩を揺らして笑ってから、後ろから抱きしめてやった。
「ミクは寒がりだなぁ」
「仕方ないじゃん、夏生まれなんだもん」
笑い声交じりに言われて、ミクはぷっと頬を膨らませる。
頭の上で甘く落ち着いた兄の声がする。すごく幸せだと感じた。
そんな時間もつかの間。
「あ!ミクとKAITOずるい!何そんなところであったまってるの、混ぜなさい!」
「マスター子供みてぇ」
「リンも火の近くいこーっと!髪の毛びしょびしょー」
「マスター、逃げる前にコート返しなさいっ!」
「いーやーだー!」
火の回りにあつまったほかの人たちがどっと笑い出す。
「アルトちゃんところはみんな元気で仲がいいねぇ」
「それだけが取り柄ですから!」
持ち主はかけられた声に笑顔で返した。
今年一年はどうだったとか、来年はいい年になるといいと話していると、寺の住職が社務所から出てきた。
「では、そろそろ時間ですので始めましょうか」
そういって鐘撞き台にのぼる。
雪が舞う冬空に、新年を告げる除夜の鐘が鳴り響いた。
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