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思わず抱きしめた。
笑顔が今にも。
「伊作……!」
唐突に現れて、抱きしめられて。
その衝撃で、抱えていた落し紙を撒いてしまった。
「ど……どうしたの?文次郎」
「なんでもねぇ」
するりと背中に手を回すと、抱きしめるその腕に力がこもるのがわかる。
「……うだと思ったんだ」
「……え?」
これだけ近寄っても聞こえないほどの呟きに、思わず聞き返してしまった。
「なんでもねぇ」
引き剥がすように離されて、腕をつかまれる。背中が壁に当たる。
「君はいつでも急だねぇ」
困ったように笑と、文次郎は唇に笑みを浮かべる。
そしてその形のまま唇を重ねあう。
目を閉じて、そっと。
壊れ物を扱うかのような口付け。
そして現れたときと同様、唐突に気配は消えた。
「もんじ……ろう?」
目を開けて見てみればそこには誰もいない。
「どうしていつも、突然現れてはすぐにいなくなるのさ」
呟きながら、先程の衝撃で取りこぼした落し紙を拾う。
腕に、彼のぬくもりが残っている。
本当はちゃんと、聞こえていた。
『泣きだしそうだと思ったんだ』
(そう見えるのは、君に何か負い目があるからじゃあないのかい?)
問いかけるのは心の中。
拾いかけた落し紙を再び床に置いて、自分で自分の体を抱きしめる。
いなくなった体温が、恋しいと思った。