『あ、お客様ですか?』
いらっしゃいませと、満面の笑みを浮かべた彼に、だれも返事をしてやることはできなかった。
『……?どうかなさいましたか……?』
小首をかしげながらも、今お茶を入れますねとすぐにキッチンへと消えていく彼の背中を見送る。
「あれがKAITO……人間みたいだな……」
「声も……ロボ声じゃねぇし……」
全員が、呆気に取られていた。あれほど人間に近いdollsを見たことがない。
本当にdollsなのか、人間ではないのかと見紛うくらいだ。
「おい……どうするんだ……?」
「マスターって……響悟のことだよなぁ……たぶん」
「あぁ……ってことは……」
「知らない……だろうな……彼は」
dollsに悲しいと言う感情があるのかはわからない。
それでも実際に彼を見てしまうと、真実を伝えにくい。彼は唯一の響悟の家族なのだ。
しばらくして、彼がキッチンから出て来た。両手には少し危なっかしい手つきで盆を抱えている。
見兼ねた寿利が手を貸した。彼はありがとうございますと礼を言った。
『ところでうちのマスターはどこへ行ったんでしょうね……』
お客様がいらっしゃっていると言うのに。きょろきょろと視線を巡らせる。
彼の視界からは寿利に隠れて死角になっている場所……。そこに響悟が眠っていた。
もちろん、寿利はわかっていてこの席に座っている。
「響悟なら……さっき……」
でかけた、と言おうとしたのを寿利が止め
「眠ってる」
「……!」
「っ……おいっ」
「いつかは言わなきゃならない時が来る……それが遅いか早いかの違いだ」
それだけ言うと、寿利は席を離れた。
床に敷かれた白い布と白木の柩が初めて彼の視界に飛び込む。
『マスター……?』
空になった盆をテーブルの上に置いて、恐る恐る柩に近付き、跪く。
まだ蓋をしていない柩の中には、死に化粧を施し生前とほとんど変わらない顔で眠っている響悟がいた。
『マ……スタ……』
声が震えて膝からがっくりと崩れ落ち、両手が怖々と響悟の顔を包む。
『起きて……ください……お客様が……来られてますよ……?』
マスター、マスターと、何度も声を架け続ける彼を見ていられないとでも言うように、全員が顔を背けていた。
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