「まだいたの」
「おなかすいた……」
気力のない声で素直に答えると、笑われた。
「じゃあこれでなんか適当に勝手に買って食べて。その辺歩けばコンビニとかあるだろうから」
黒光りする高そうな財布から、一番高価な紙幣を取り出して気前よく渡してくれる。
「ありがとう……」
お礼をいいながら、ミクは気づいた。わざとはだけたダークブルーのシャツの胸元に赤い痕がいくつもついていた。
その目線に彼も気づいたようで
「あ、これ?なかなか消えなくて困るよ」
軽く片目を瞑ってうそぶく。ミクにしてはなんとも面白くない。
「ここじゃめったに寝ないって……そういうこと……」
「そういうこと。大人になったからわかるだろう?」
それだけ言うと、また着替えて出て行った。
ここには着替えるためだけに帰ってきているらしい。彼の肌に痕を残す相手は一人や二人ではないようだった。
まっすぐに帰ってきたら、それはそれで必ずミクと交わった。
「俺、どんなに疲れてても一日一回はヤんなきゃ気がすまないんだよ」
と、押し倒されては犯された。
初めの時のように強姦まがいに犯されることもあったが、ミクも楽しめるようにとやさしくしてくれることもあった。
ナカに出されることもあったし、避妊具を使うこともあった。彼のスタイルはそのときの気まぐれで変化するらしかった。
でも、ミクの気持ちや体のことを考えてくれることはなかった。やはりどうでもいいのだろう。
16歳のアイドルが突然失踪。帰ってきたときには妊娠してました、など笑い事では済まされない。
ここにはテレビがないため世間の様子を知ることはできないが、たまっていた仕事などはどうなったのだろう。
そういえばミクが仕事を放って飛び出してきた理由さえ、彼は聞いてはくれなかった。
また、彼の無軌道ぶりは性的なことに限ったことではなかった。
ミクを拾った日は例外的に素面に近い状態での帰宅だったが、毎日のように酒を飲んでいるらしく、深酒をして帰ってくることが多い。
急性アルコール中毒寸前の状態で帰ってくることなどしょっちゅうだった。
最終的には玄関横にあるトイレで嘔吐していた。
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