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ラーブラーブ。
っていうか
ちょっと本格的に
ク サ イ 。
十万分の一の確立なのだ。
空が高い。
一見牧場か何かかと見紛うような緑が一面に広がる公園で、妹がしゃがみこんで何かを一生懸命探していた。
『ミク、何してるの?』
他の姉弟とマスターは別のところでフリスビーに興じている。
『んー……ちょっと探し物』
ひたすら目を凝らして、長い髪やスカートのすそが地面について汚れるのもかまわず、地面を見つめる。返事もなんだか上の空だ。
『探しものって?』
『お兄ちゃんにはないしょ』
聞いてみたが教えてはもらえなかった。
なんだか寂しい。
スカートのすそはともかく、髪が汚れるのはちょっと……と思い、KAITOはミクのアイデンティティである長いツインテールを持ってやった。
図としてはなんだかウェディングドレスのヴェールを持っているかんじ。
(ミクもいつかお嫁に行っちゃうのか……寂しいなぁ……)
と思ったが、おいおいまてよ、俺たちはボーカロイドなんだから嫁に行く必要はないんだと思い直す。
お嫁に行く事があるとしたら、この家ではマスターだけだ。それもなんだか不安。
とかなんとか考えていると、『あ!』という声が上がり、ミクが勢いよく立ち上がった。
『みつかった?』
『あー……違う。これじゃない』
どうやら違ったようだ。
手に持っていた何かをぽいっと捨て、再びしゃがみこみ探し始める。
『ミクー……みぃちゃーん……』
『なぁに?』
『さっきから何さがしてるの?』
『だから、お兄ちゃんにはないしょ』
がっくりうなだれる兄を尻目に、ミクは土で指が汚れるのもかまわず直に手をついて探す。
『これじゃなーい。これでもなーい』
ぶつぶついいながら探し始めてから十五分くらいが過ぎた。
『!』
目の前にいた妹がまた突然立ち上がり、くるりとこちらを向いた。
必然的に手にあった彼女の長い髪が指の間をすり抜けていく。
『あったよ、お兄ちゃん!』
彼女は至極嬉しそうにやわらかく笑った。
KAITOは一瞬目を見開き、驚いた表情を見せたがにっこりと微笑み返す。
『何がみつかったのかな?』
『これ』
ミクの手にそっと摘まれていたそれを見て、KAITOも目を輝かせた。
『四つ葉だね。クローバー』
クローバーをつまんでいる手に、手を重ねる。触れた手はずいぶん冷たい。
『幸せになれるといいなぁ』
『そうだね。あれ、ということはミク。まだ幸せじゃないの?』
ちょっと意地悪なKAITOの言い方に、ミクは別段腹を立てる風でもなく少しあわてた様子で
『ちがうの。幸せだけど、この幸せがもっと続きますようにってお祈りするの』
そういってポケットからハンカチを取り出すと、ようやく見つけた四つ葉をその中にしまいこんだ。
『帰ったら押し花にしよう。あ、お兄ちゃんの分も探さないと』
そういって再びしゃがみ込もうとする妹に
『ははは、俺はいいよ』
『なんで?』
『俺は今のままで十分幸せだからね』
君がそばにいてくれる。これ以上の幸せはいらないから。
四つ葉のクローバーと出会える確立は十万分の一なのだ。
それ以上でも以下でもない。
でも君と出会える確立はきっと、それ以上に難しい。
だから俺はこれ以上の幸せはいらない。
KAITOはそっと、ミクを抱きしめた。