翌日、自分も一緒にミサへ行くというこを彼につげに、ティンは再びロータリオを訪ねた。
「えぇ!?ホントに!?」
彼は声を上げて驚いたあと、一緒に行けるんだと喜んでくれた。
「でも、まだ今は行けない。やることがあるからね…」
「うん、俺も一緒。まだこれから学校へ入るための勉強しなきゃ行けないし。」
16になっていたロータリオは、他の友達が殺されてから学校へは行っていない。その代わりに教師が彼の家を訪ね、教えにきていた。
「そっか。がんばれ」
ニッコリと笑って応援してくれる彼女に、うんと大きく頷き返し、彼は笑った。
「そういえばこの街って…お医者様はいるの…?」
そこで学ぶことはできないのかしらと首をひねる彼女に
「うん…いたらしいよ。でももうすっごいお爺さんだったんで、もう何十年も前に亡くなったって聞いたよ」
「へぇ…そうなの…どんな人だったかしってる?」
「え?あ・・・一応ね。写真があるんだ」
そういって、ロータリオは立ち上がると本棚で埃をかぶっていたアルバムを引き出してきてページをめくり、ティンにみせた。
色あせた年代モノの写真の真ん中あたりにその人物は写っていた。
「こ…の人が…?」
驚きを隠せない彼女に、ロータリオはうんと頷くものの、怪訝そうな表情を見せる。
「どうかした…?ティン…?」
「・・・・・」
魂を吸いとられているかのように、彼女はその写真を一心不乱に見つめていた。
「ティン?ティン?」
何度か呼びかけられてはっと気づいたように彼女はロータリオを仰ぎ見た。
「ごめん、私用事あったの思い出しちゃった。今日はありがと」
そういって、ティンは彼の顔を見ないようにして一目散に自分の家へと走って帰った。
アレは嘘だと、心の中で念じながら。
街を抜け、海の見える草原を走り、機械の心を手で押さえながら、真っ黒な塔のドアを勢いよく開け放した。
「おじいちゃん!」
「なんだい…?ティン…お前走って帰ってきたのか?あれほど心臓に負担がかかるからと教えたのに…」
祖父は彼女の肩に手を置いて真面目な顔で呟いた。
「それより…おじいちゃん…。おじいちゃんって…私たちがここへ来る前に…この街にすんでたの…?」
呼吸を乱し、かすれた声で尋ねる彼女の表情は、真実を知りたくないと語っている。
「それは…誰から聞いたんだい…?」
祖父は目を瞑って尋ね返した。その返事は真実であるということを証明したようなものであった。
「写真…見たの…」
祖父から目をそらすように、彼女は俯き呟く。
「そうか…知っているならばもう黙っておく必要も無いな…」
そういうと、ついてきなさいと、彼は今まで彼女が入ったことがなかった地下室へと案内した。
暗くじめじめとしている階段を下りると、壁に蝋燭の立てられた廊下があった。石で作られたその廊下はまっすぐに続いており、行き止まりには大きな鉄の扉がつけられていた。
扉をくぐるとそこにはチカチカと点滅しながら動き続ける巨大な機械。
「おじいちゃん…これって…?」
呆気に取られている彼女に、こっちだよと言い、祖父は彼女の前をずんずんと歩いていった。
「これ…って…!?」
「これとはなんだい。お前の母さんじゃないか」
祖父はにっこり笑って応えた。
「違う…これは…っ!!」
彼女はショックのあまり気を失ってしまった。
彼女が見せられたものは、光る黄緑色の液体の中に浮いている母親の首だった。その首にはたくさんの管が取り付けられ、そのうちの一つは心臓にかわる、ペースメーカーとつながっていた。ソレは彼女がまだ生きているという証明でもあった。
「おや、気を失ってしまったか。まぁそのほうが都合が良いな…」
祖父は近くにあった台車に、彼女をのせると、隣の部屋の診察台へと運んだ。
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