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嗚咽を漏らすような声が聞こえて、伊作は部屋の前で立ち止まった。
入るべきか入らざるべきか少し迷った。
親友である仙蔵なら慰めてやりたい。
だが、もしも文次郎だったら。
そう考えて障子の手前で手が止まる。
恋人である文次郎が泣いていたなら、自分はどうするべきなんだろう。
それでも意を決して少しだけ障子を引いた。その隙間からするりと入り込む。
夏の暑い時期に締め切った部屋はやはり蒸し暑かった。
がらんとした部屋の片隅で、彼はうずくまっていた。
目を右手で覆い、ひざを抱えて壁にもたれている。
伊作はゆっくりと近づいて手を伸ばした。
その指が触れる前に体はびくりと震えたが、おそらく伊作が部屋の前で迷っているときから気づいていただろう。
柳眉を寄せたまま口元を緩めると、横に座って優しく彼の頭を撫でた。
いつも被っている頭巾は左手にクシャクシャなって握られている。
あまり手入れされていない髪がちくちくと刺さって少しくすぐったかった。
二人でしばらくそうしていた。
文次郎は膝を抱えたまま、伊作は彼の頭を撫でたまま。
ここに来たころには南に上がっていた太陽も、今では西に傾いていた。
彼は泣いている理由を一切語らなかった。
涙を流してもいなかった。
ただ、泣き終わったあとに一言
「ありがとう」
とだけ言った。
普段が普段だけに、伊作はなんだか変な気分に襲われた。