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髪にそっと口付ける。
夜風がふわりと縁側の風鈴を揺らした。
月の出ない朔の日は忍者にとって黄金時間である。
それはある男にとって、とても重要なものであった。
走り出す。
軽く息を弾ませる。
クナイを投げる。
的に当たる。
静かにすべてを遂行する。
すべては強くなるために。
「夜中にたずねてきたかと思えば、無茶をする」
呆れのため息を漏らした。
綺麗な包帯を巻かれていく手は小さな行灯に照らされて橙に光る。
「服は土ぼこりにまみれてるし。はい、できた」
無理しちゃダメだよ、と包帯を巻き終わった手をきゅっと握ってぽんぽんと軽く叩く。
「夜中のトレーニングもいいけど、あんまり無理はしないで」
「おい」
そそくさと立ち上がり救急箱を片付けに部屋へと戻ろうとする伊作の腕を掴み、包帯を巻かれた手が引き止める。
「なんで泣いてるんだ」
月光に照らされて、こぼれた雫がきらりと光った。
「兎に角落ち着け」
何処となく焦ったような声色に、伊作はうんと頷くが込み上げる熱いものはなかなか止まらない。
参ったなぁと言う風にガシガシと頭を掻くと、しゃがみ込んでしまった頭を抱き寄せ軽く撫ぜた。
「どうしたんだ、急に」
「……文次郎が……死んじゃった……」
飛び出した言葉に思わず目を見開く。
「じゃあ今ここにいる俺は何だよ」
できるだけ優しい声色で言い聞かせるように囁く。
「腕に怪我したくらいで死んだりしねぇよ。お前が一番わかってるだろう?」
夢でよかった……と枯れた声が呟く。
「夢でも……庭から誰かが……やってきて……文次郎が……息も絶え絶えで……僕はどうにもできなくて……それで、文次郎は……息を……っ」
泣き止みかけたところで、また泣き出した伊作を、文次郎は強く抱きしめた。
「あー、わかったから。泣くな。な?」
どれだけの時間そうしていたのか。
行灯も風で消え、月明かりだけが青白く二人を照らし出す。
「俺は簡単に死んだりしねえよ、そのために強くなるんだからな」
額と額をくっつけ、ようやく泣き止んだ伊作の頬を転がる涙を指で拭った。
「でも嬉しかったぜ」
「……え?」
「夢であろうが、俺の最後を看取ってくれたのがお前だったなら、俺は本望だからな」
頬に紅葉を散らした伊作の髪をゆっくりと撫ぜる。下ろされた洗い髪はさわり心地が良かった。
その髪にそっと口付ける。
夜風がふわりと縁側の風鈴を揺らした。