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Saika
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食べるのはお腹壊すとまずいんでやめたほうがいいかと。

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翌日、櫻のクラスはある話題で持ちきりだった。
「ちょっと櫻っ!聞いたよ!」
「あんたあの栂谷先輩と付き合ってるんだって?」
「は?」
教室に入るなり待ち構えていた双子に自分の席に座らされ、問いただされて洗いざらいすべて吐かされる。
「だから付き合ってなんてないんだってば」
「じゃあほんっとーに、声かけられてホイホイついていっただけ?」
「そうだけど……ホイホイって……なんか悪いことみたいじゃん」
その答えを聞いて、机の前に立ちはだかる二人は満足そうに息を吐く。
「もう慌てたよ。栂谷先輩が女子連れて歩いてるところ見たってうわさになっててさ」
「しかもそれがあなただってうわさになってるんだもん」
同じ顔が同調して話す。
「でもよかったぁ、付き合ってなくて」
ステレオで言われ、彼女はただ呆れのため息を吐くばかり。
「もし栂谷先輩と一年生のあたし等なんかが付き合おうものなら」
「栂谷先輩ファンクラブの女子たちに袋叩きは確実ね」
「校舎裏に呼び出しとか」
「上靴に画鋲が入っていたりとか」
「不幸の手紙が送られてきたりとか」
フフフと笑顔のまま人差し指を立てて延々と語ってくれる二人の話を右から左に聞き流しながら、櫻は窓の外を眺めた。窓の外は昨日からの雨がまだ降り続いている。
「残念ながら今のところ、呼び出しも画鋲も不幸の手紙も何もないよ」
答えると本当に酷く残念そうに、二人はため息をついた。
「何?」
「あーあ、櫻にもようやく色っぽい話が来たと思ったのになぁ」
「二人でお祝いしようって思ったのに」
赤飯炊いて。とニコニコする双子に、今度は櫻がため息を吐く番だった。


双子に色っぽい話がない、と一刀両断された櫻だが、彼女にはずっと片恋の相手がいた。
それこそ、生まれたときからずっとだ。
誰にでも優しくて、強くて逞しい。憧れの存在。
そのことを知っているのはその人の弟だけ。
迷子になっても必ず見つけ出してくれる。自分の希望の光。
「ただーい……ま?」
いつもの様に、幼馴染の家へ帰ってきた櫻は玄関を開けてすぐに聞こえてきた笑い声に、小首をかしげた。
「あぁ、櫻。おかえり」
「よっす」
「!」
リビングに入り、目に入った人物にびっくりして荷物を落としてしまった。
目線の先にいるのは、いつも出迎えてくれる幼馴染、藏之助と。
「なんであんたがいるの!」
「ひでぇな」
ソファにすわり、はははと笑っていたのは、垂れ目とピアスが印象的な、栂谷誠一だった。

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「え?じゃああの先輩、藏之助の知り合いなんだ?」
櫻はココアを受け取りながら、相手を見上げた。
リビングにある椅子に座り、つかない足をぷらぷらさせる。
「去年のことだが、あいつに彼女の写真を見せろとせがまれた事があってな」
そういいながら尻ポケットに手を伸ばして財布を取り出す。
カードケースの中にはいつも彼女の写真が納まっていることを、櫻は知っていた。
「で、コレをみせたわけだ」
そういって数枚ある中の一枚を差し出した。
それは秋の祭りのときに彼と彼の彼女と三人でとった写真だったが。
「それで私の顔を知ってたわけ……ってなんでよりによってこれ……?」
櫻は脱力しそうになる。
頭につけたお面、両手いっぱいに抱えられた戦利品の数々。撮影したときはほくほくで、良い笑顔で写っていたのだが、今見るとあまりにも幼い。
「なんか私が欲張り見たいじゃん……」
「その時はちょうどそれしか持っていなくてな。写ってる金魚とかヨーヨーの数に驚いていた」
「あれは愼ちゃんが私に押し付けるだけ押し付けてっ!」
ぷぅっと頬を膨らます彼女に、彼はふっと笑みを浮かべる。
「でも半分はお前が取ったんだろう?」
「ポイがおかしかったんだって。なんであんなに破れないの」
「角度とスピードが命なんだよ、金魚すくいは」
あと、ヨーヨーは紙を濡らさないのがコツね、といってリビングに現れたのは長身の男だった。
「愼ちゃん!おかえりなさい」
椅子から降りて現れた男・愼之助に近寄る。
「あはは、今日は講義を休みにしたからずっと家にいたんだけどね」
苦笑しながら櫻のハグに応じる。
「あっ、ごめんなさい」
しおらしく謝る櫻に、藏之助はもう笑いを殺すのに必死だった。自分に接するときとあまりにも態度が違う。
「気にしないさ。いつも忙くて櫻にはなかなか会えないけど、元気そうだね」
指で髪を梳くと、くすぐったそうに櫻は笑った。
「ところで藏之助。母さんたち今日はデートだそうだから、そこらへん良しなに」
目元で笑ってそういうと、タバコを買ってくるよといって出て行く。その背中に、藏之助は了解と声を投げかけた。
「デートって……おばさんたち本当に仲良いねえ」
梳いてもらった髪を口元に持ってきて嬉しそうにくすくすと笑う櫻に、藏之助は鼻を鳴らした

大地が受け止め、鳥が歌う。花が踊る。
空から転がるのは小さなカケラ。

Rainy Eyes

やっぱり傘を持ってくればよかった、と長い髪の少女は空を伺う。
教室で
「じゃあね、櫻」
と手を振ってくれた友達はとうに帰ってしまった。
学校からバス停まではなんとか走りきれるだろうが、そこでバスを待っている時間が辛い。
どんなに一生懸命走ったところで、良いタイミングでバスが来ていなければ意味がなくなってしまう。
どうしてバス停に屋根がないのと玄関でため息をこぼしていると、
「入っていくか?バス停までだろ?」
と誰かが話しかけてきた。
まさか自分に話しかけているのでは無いだろうと放っておいたら
「こら、人の話きいてんのか?」
と、顔をのぞき込まれる。
ワックスで固めた黒髪、両耳には小さなピアス。少し垂れ気味の目尻と笑みを含んだ口元。見たことの無い顔だった。
「誰……」
訝しんで思わずつぶやいてしまった言葉に、相手はくつくつと笑う。
「お前、大川先輩の知り合いだろ?」
聞きなれた名前に、櫻の警戒心が少し緩む。
雨は相変わらず降り続く。
「俺は栂谷誠一。転入してきたばっかでも、名前くらいきいたことあんだろ?先輩からきいてねぇかなぁ」
名前をきいて、あぁと思う。栂谷誠一。中学テニス界での注目株だと、そういったことに疎い彼女でも噂に聞いたことがあった。
「栂谷……誠一……」
「おら、栂谷誠一先輩、だろうが」
かみ締めるように名前を呟く彼女に、屈託なく笑う彼の姿は、まるで太陽のようだ。
「で、入るのか、入らねえのか」
傘を軽くあげて示し、少女に問う。
彼女は少し考えた上で、微笑んだ。
「じゃあ、おじゃまします」
それが二人の出会いだった。
 


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