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初めて訪ねたときは夢か、悪い冗談だと思った。
自分の仕事の配達先があの有名な演歌歌手の家だなんて。
「こんにちは」
挨拶をして、いつもどおりに商品である米を裏口に運ぶ。他の家とは違い、その家にはいつも使用人がいた。
なのに、その日に限って。
「いつもご苦労様」
本人が微笑んでいた。
演歌歌手、綾部喜枝。
容姿端麗で天賦の才能を持った女性。
演歌界・音楽界だけでなく、ドラマや舞台などさまざまなジャンルで活躍する、国を代表する女優歌手である。
「どうもっす…」
兵助は思わず言葉を失った。
テレビやうわさでは知っていたが、本物を目の前にしてみるとやはり違うと思う。
受ける感じとか、口調だとか、ふとした仕草だとか。すべてが新鮮だった。
(おいおい…相手は芸能人で人妻だっつーの!)
赤くなる顔と、ドキドキする心臓を落ち着かせながら自分に言い聞かせる。
そう、彼女は人妻だ。何年か前に新聞で読んだ相手は、確か外資系のエリートだったと記憶している。
「お米屋さん?」
小首を傾げる彼女に呼ばれ、兵助ははっとわれに返った。
「いえ、すいません……。テレビで見るよりもお美しいので……」
一瞬仕事を忘れた自分を恥じながら、照れ笑いをする。彼女はうれしそうに微笑を浮かべていた。
「ではここにハンコをお願いします」
用紙を渡して示す。キレイな指がそれを受け取り、判子を手に取った。
「もしよかったら、お茶でものんでいかれませんか?」
判子を突いた用紙を手渡した彼女は、やっぱりきれいだった。
唐突の誘いに、兵助は頭の中が真っ白になる。
断るべきか、お邪魔するべきか。
いや、今は仕事中だろう。
思慮がめぐり、導き出された答えは
「仕事がありますので、また今度誘ってください」
そういって彼は扉を閉めた。
家を出て車に乗り込んでから叫ぶ。
「うあぁぁぁ!もったいねぇぇ!!」
芸能人から家に誘われるなんてことはありえないのに。
「ってか今度っていつだよ!俺!!」
帽子を脱いで髪をかきむしる。そうでもしないといてもたってもいられなかった。
とりあえず、店に戻って店主に一発殴ってもらおう。
あまりにも夢心地の自分を戒めるために。
心の中でつぶやいて、兵助は車のエンジンをかけた。
なんというタイトル。
久々知×綾部でした。
綾ちゃんかわいいよ綾ちゃん。